何気にセルフブランディングが凄いバンドたち

観客の一人として、バンドのブランディングについて気付いたことを書きます。

バンドとして成功して、世界ツアーを継続的にしている。つまり彼らは「ビジネスとして」バンドを成功させているのだ。ビジネスとして成功させるということは、ただ遊んでれば良いわけはなく、経営やマネタイズやブランディングといった“お堅い”話が関わってくる。

お堅い話が必要なのだが、一方でバンドというのは夢だ。決して恵まれない環境から、仲間と共に、己の腕でのし上がるサクセスストーリー。ギタリストはヒーローだ。若者たちが「〇〇やべぇ!超カッケー!!」と熱狂して、夢見る、陶酔感が肝要だ。

つまりは、「如何にビジネス面とドリーム感を両立できるか?」ということだ。

ビジネスだけでは、売れはしても「憧れのヒーロー」にはならない。それではBGMにはなっても若者たちの心の拠り所にならない。逆にドリームだけでは食っていけず、それもまた憧れの対象にならない。

バンドというのはステージに立つ存在だ。注目を集めるが、実際に客がバンドマンを見られるのは、ステージの上、それからVIPチケットで入れるエリア、あとはせいぜい街やバーで遭遇してサインをねだるだけだ。プライベートの姿や、何を考えているかなどは、バンドマンが取材を受けない限りは分からない。バンドマンに限らないが、人というのはある程度「見せたい姿」を操作することが可能だ。

バンドをビジネスとして成り立たせている「ビジネスマンの顔」を、どこまで隠すのか、あるいは「ビジネスマンじゃなさそうな顔」を意図的に出していくのか、というのがポイントだ。

その「ビジネスマンの顔」的な発言は徹底的になくし、「ビジネスマンじゃなさそうな顔」をあらゆる所で挟んでいき、「まさか、こんなキャラでビジネスなんかしないだろう」というイメージを完全に植え付けているバンドはいる。勿論、そういうバンドは1つではないはずだ。

ライブをすると「今回もフリーダムだな〜!」「〇〇なら許されるw」みたいな反応になり、取材を受ければ「やっぱり〇〇は天才だ!」と、彼らの「純朴さ」は疑われることがない。「ビジネスマン」の面を排除し、「憧れのヒーロー像」をあらゆる角度から構築した結果だ。

バンド内の誰かが実は卓越した経営の才能があるのか、メンバーの身内に経営ノウハウを教えてくれる人がいるのか、プロデューサーが凄いのか、それは当然外からは見えないが、「バンドに夢中になっていたら、いつの間にか成功していたぜ!」という顔にしか見えない、そういうバンドがある。

「ビジネスマンじゃなさそうな顔」「純朴さ」は、言い換えれば「インディーズ感」とか「垢抜けなさ」または「尖り」「子供っぽさ」だと思う。

例えば、ジャケが昔から一貫してダサいとか、歌詞が昔からいつも尖ってるとか、ステージ上での所作がやたらと乱暴だとか、全部を全部やる必要はないと思うが、メジャーに出てもそういう「俺達は昔から変わってねェぜ!」という感じを守っていくのは、古参ファンへのサービスも含んだ良いセルフブランディングだと思う。

表題の「何気に」というのが重要で、「あからさまに」では興ざめなのである。「俺たちは、やりたいように自由にやってるぜ!」というイメージを、自然に保ち続ける。これは意外と難しそうだ。

もちろん、「大人っぽさ」や「真面目な感じ」を売りにしているバンドなら、少しビジネスライクな所を見せる方が効くこともあるだろう。または、超大物のビッグ・バンドならば、発言や行動の責任が重くなるのかもしれない。

今までの話とは違うが、バンドのライブを見ていると思うのは、セルフブランディング=世界観作りがあるのとないのでは、記憶への刻まれ方が全然違うなということだ。ライブというのは得てして、似たようなジャンル・似たような曲・似たようなクオリティのバンドが集まって行われる。そこで目を引きたいのなら、じゃあどこで差別化するかと言えば、キャッチコピー(バンド名)であり、見た目であり、ステージングであり、つまりは世界観なのだ。

何も考えずにひたすら「カッコいいこと」を追求していくと、「よくある感じ」に落ち着いてしまうのだと思う(同じ国の似たような環境で、似たような影響を受けて成長してきたから)。

私は「演奏が上手いバンド」も好きだが、「世界観が面白いバンド」はもっと好きだ。個人的な感想としては、世界の人口は70億、日本の人口は1億ちょっとなんだから、どうせならレアリティの高い日本語で歌ってみればいいのに、と思う。それだけで随分面白くなる。