「ぐぅ…」
(ブロロロ…)(ドドド…)
「…?」
遠くから、丸い光が2つ近づいてくる。
(ドドドド… …ブゥゥン…)
ドドドド…ッ!ゴオオ…!!
「な、なんか来てる…?!ま、マグロ!」
「…あぁん?」
「あれ…何かこっちに…!」
「…! まずい、荷物を…」
バッ!
「よっし、ゲットォー!!」
「!!」
バッグが盗られた!
あの中には…
「ま、待て!!」
「ヤバっ、おいエンガ…?!おい!何やって…?!」
「僕の…!俺のCD!!!」
「うおっ?!何だお前?!二人乗りは危ね…っ!?」
「どけ!!それは俺のだ!!」
「あぁっ!」
ドサッ!
「これだからバイク乗りに良い奴はいねぇんだよ…」
「おいエンガワ、大丈夫かよ、飛び乗ったりして…」
「おう。お前のバッグも取り返すぞ」
「えっ、あ…?どうした?キャラ変わって…」
「乗れ!」
「あっ、はい」
ブォォォオオン!!!
「うおっ…!!お前免許は?!」
「んなもんねぇよ!!」
「… …よし、頼んだぜ」
「掴まってろ!」
「あいつだ!」
「俺が横につけるから、飛びかかれ」
「また随分ムチャな…まぁやるけどさぁ」
「おいてめえ!バッグを寄越せば見逃してやる!!」
「は?誰だおま…」
「今だ!」
「よっと!!」
ドシャァッ!!
「オッケー、なんとか無事に…エンガワよ、ついでにこのまま谷越えちまうか」
「おっ、いいぜ」
「ぶっとばすぜー!!」
ブロロロ…
奪ったバイクで谷を越え、N市に到着したのは朝だった。
「意外とかかっちまったな。 …おっ、着いたね!」
「こいつバイクに乗ると…」
「あいつら何だったのかな?」
「ん、あの辺たまーに出るんだよ。強盗ってか、ひったくりっていうか…大丈夫だと思ってたけど、当たっちまった」
「そうなんだ… …うーん、とりあえず寝たい…」
街のはずれの公園で、バイクを日陰に休むことにした。
「そういえば、マグロはバイクの免許持ってたの?」
「んー… 多分持ってない」
「多分、って…?」
金髪を風になびかせながら、青い空を見上げている。
「オレさ、16から18の途中までの記憶、ないんだよな」
「記憶…喪失?」
「うん。目が覚めたら、いつのまに18歳だった。だから、その間に取ってなければ、免許ない」
「そっか…」
「そういえばといえば、お前さあ、」
あっはっは、と笑ってから、日陰にしているバイクを叩いて僕を見る。
「お前、バイク乗ったらめっちゃ強気になるのな!!さすがにビビったわ~」
「あは…あれね、何だろうな…なんか、親父のこと思い出してイライラしちゃったんだよね」
「あー…そうなのか。一人暮らしの…失踪で…」
うーん、と顎に指を当てて、またこっちを見る。
「あのさ、言いたくなきゃ言わなくていいんだけど…親となんかあったの?」
「えーとね…マグロには言おうと思ってるけど…今はちょっとまとまらないから…後で…」
「おう、わかった」
穏やかな風に、意識がさらわれていく。
「ん…」
「おっ?」
「…おはよう…」
「よし、起きたな!昼飯行くぞ!」
「うーん、うん。そっち寝たの?」
「ちょっとだけな」
駐車場にバイクを停めて、食事処へ。
「んん、んまい!」
「魚がカツ丼食べてる」
「んだよ、お前の方こそ、共食いじゃねーか」
「これエンガワじゃなくてイカだよ」
「だいたい同じだろ!」
「2年前、親父がいなくなってさ」
店からしばらく歩くと、腰かけられそうな広い階段があった。
「しばらくして、母親もいなくなって…多分、親父を追っかけてったんだけど」
「うん」
「親父はさ… 酒飲みで、煙草も超吸ってて、多分浮気とかもしてて…あとバイクにすげー金かけてて」
「…」
「だから多分、破産しそうになって…逃げたんだと思う」
肩にずっと乗ってるマグロの腕が震えてるのが分かる。
「だから、バイク乗ったら、自分も親父と同じことしてる、みたいに思っちゃって、イライラして…」
「ごめん…」
「ん?」
「性格変わったって笑ったり、ビビったとか簡単に言ったりして…」
「あぁ…知らなかったんだから、しょうがないよ。気にしないでいいから」
「ホント悪い…」
「なんだよ、らしくないな…あれっ、雨か」
見ると、さっきまで晴れていた空は、いつの間に黒雲に覆われ始めていた。
「ね、N市なんだから、きっとデカいライブハウスもあるでしょ。雨宿りついでに探しに行こう」
「あっ… おう。…ありがとな」
この旅の最初の目的は「あのCD」の製作者を探すことだった。でも今は、探すものがもう2つ増えてると思う。
マグロの記憶と、僕の親父とのケリ。